皮膚電気活動は、働く人の緊張を映すのか。測定の作法と限界
皮膚電気活動(EDA)は、緊張や覚醒を映す指標として長く使われてきました。研究室の外で測るとき、何が分かり、何が分からないのか。論文をもとに、測定の作法と限界を整理します。
Stella Nest 編集部

「手首のセンサーで、現場の緊張が見えるようになるのではないか」。設備や機器の開発に携わっていると、そんな期待を耳にすることがあります。皮膚の汗の反応を電気で捉える皮膚電気活動(EDA)は、その有力な候補です。ただ、信号が出ることと、緊張が分かることは別の話です。この記事では、EDAで何が言え、何が言えないのかを論文から整理します。
皮膚電気活動は何を映しているのか
この節では、EDAがどんな信号で、研究ではどう扱われてきたかを確認します。

EDAの総説によると、EDAは「汗腺に対する交感神経の支配が電気として現れたもの」です[1]。つまり、汗そのものというより、交感神経の働きが汗腺を通して皮膚の電気的な性質に出たものを見ています。感情的・認知的なストレスの研究では1879年から使われてきたと、同じ総説は述べています[1]。
平均値から、ゆっくりした変化と素早い変化へ
総説によれば、長い間、ある期間のEDAの平均値を覚醒の目安にするやり方が使われてきました。その後、平均値が表すゆっくりとした変化(トニック成分)だけでなく、素早い変化(フェージック成分)にも情報があることが分かりました[1]。さらに、疲労・痛み・眠気・運動後の回復などの評価にも使われるようになり、信号を処理する新しい方法が増えています[1]。
ここで大事なのは、EDAが示すのは「交感神経が動いたかどうか」という覚醒の程度だという点です。それが仕事上の緊張なのか、驚きなのか、別の要因なのかは、信号だけでは判断できないと、この記事では考えます。心拍の指標との違いは、心拍変動(HRV)はストレスの指標になるのかも参考になります。
何が標準なのか:測定の作法
測定の作法は、勝手に決めるものではありません。この節では、研究者の学会がまとめた記録の推奨を見ます。
精神生理学会(SPR)の委員会がまとめた推奨は、2012年の論文として発表され、新しく始める人にも経験者にも使える単独の資料を目指したものです[2]。被引用は1,281回と多く、よく参照されている論文です。
記録方法は3種類ある
この推奨は、EDAの記録方法を次の3つに整理しています[2]。
- 01外部から電流を流さずに記録する方法(内因性)
- 02直流電流を流して記録する方法(外因性。もっとも広く使われている)
- 03交流電流を流して記録する方法(外因性。これまで使用例は少ないが、将来性があるとされる)
さらに、研究室での記録に加えて、日常の場で記録する「携帯型(アンビュラトリー)」が新しい技術として広がっていること、現場の記録に特有の問題があることも論じられています[2]。そして、論文に書くべき方法と結果の詳細についても推奨が示されています[2]。
現場で測る前に確認したいこと
ここまでの内容を、R&Dや設備の担当者が計画を立てるときの確認点に置き換えます。以下は、論文の推奨の趣旨を踏まえた当社の整理であり、個々の数値基準は各論文で確認してください。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| どの記録方法で測るか | 推奨が記録方法を区別して整理しているため[2] |
| トニックとフェージックのどちらを見るか | 平均的な水準と素早い反応では、読み取れる情報が異なるため[1] |
| 測定条件を詳しく記録するか | 条件が分からないと、他の研究や自社の過去データと比較できないため[2] |
| 現場の記録に特有の問題を想定したか | 日常の場の記録には、実験室とは別の問題があるため[2] |
この表の「理由」は、推奨が条件の記載を求めていること、現場の記録に特有の問題が論じられていることを踏まえた整理です。電極の位置や室温などの具体的な基準は、この記事では扱っていません。実際の計画では、推奨の本文を確認してください。
実験室から実生活へ:2025年の新しい研究
実験室で成り立つことが、そのまま現場でも成り立つとは限りません。この節では、新しい研究を2つ紹介します。
2025年に発表された新しい研究では、ウェアラブル機器によるストレス検出を3段階で検証しています。まず、統制された条件で集められたデータセット(WESAD)を使い、2分類と5分類のモデルを作り、最大の正解率は2分類で99.78%±0.15%、5分類で99.61%±0.32%でした[3]。心電図、EDA、呼吸が信頼できるストレスの指標として特定され、さらに実生活のデータを表すデータセット(SWEET)にも検証を広げています[3]。
| 検証の対象 | データ | 報告されたこと |
|---|---|---|
| 統制された条件 | 統制された条件のデータ(WESAD) | 正解率 99.78%(2分類)/99.61%(5分類) |
| 実生活 | 実生活を表すデータ(SWEET) | 汎用性と実用性の確認が目的 |
2026年に発表された総説でも、皮膚電気反応(GSR)は心電図、光電式脈波、脳波、瞳孔径などと並ぶセンサーとして挙げられています。ウェアラブルは、人が普段過ごす環境で生理反応を連続して測れるため注目されていると述べられています[4]。また、複数のセンサーの組み合わせが、ストレス検出に役立つデータを与えるとされています[4]。
これらは新しい研究で、2025年・2026年に発表されたばかりです。被引用数もまだ少なく(執筆時点で20回と8回)、他の研究者による追試は十分に積み重なっていません。99%台の正解率は統制された条件のデータでの値であり、そのまま職場に当てはまると考えるのは避けてください。また、EDA単独ではなく、心電図や呼吸と組み合わせた結果である点にも注意が必要です。
まとめ:EDAは「単独の答え」ではなく「手がかり」
EDAは、交感神経の働きを映す、長い研究の歴史を持つ指標です。一方で、緊張なのか別の要因なのかは信号だけでは分かりません。新しい研究も、複数の指標を組み合わせて精度を高めています。
明日からできる一歩は、測り始める前に、記録方法・見る成分・測定条件をそろえて書き出すことです。そのうえで、アンケートなどの主観と突き合わせて読むことをお勧めします。私たちは、脳波・心拍・音声などと組み合わせて状態を読み取るマルチモーダルな解析を進めており、EDAもその一つの手がかりとして位置づけています。
注
- Posada-Quintero, H. F., Chon, K. H.(2020)「Innovations in Electrodermal Activity Data Collection and Signal Processing: A Systematic Review」『Sensors』 https://doi.org/10.3390/s20020479
- Society for Psychophysiological Research Ad Hoc Committee on Electrodermal Measures(2012)「Publication recommendations for electrodermal measurements」『Psychophysiology』 https://doi.org/10.1111/j.1469-8986.2012.01384.x
- Darwish, B. A. ほか(2025)「From lab to real-life: A three-stage validation of wearable technology for stress monitoring」『MethodsX』 https://doi.org/10.1016/j.mex.2025.103205(新しい研究)
- Al Abdi, R. ほか(2026)「Mental Stress Detection Using Physiological Sensors and Artificial Intelligence: A Review」『Sensors』 https://doi.org/10.3390/s26051616(新しい研究)
