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「頭の疲れ」は測れるのか。生理指標の得意と限界

心拍、視線、脳波。「頭の疲れ」を測る指標は数多くありますが、どれも万能ではありません。系統的レビューをもとに、指標が捉えられること、捉えきれないこと、現場で使うときの注意点を整理します。

Stella Nest 編集部

「今日は頭が働かない」。そう感じる日は、数字で見るとどのような状態なのでしょうか。心拍や脳波を測れば、集中の消耗を客観的に知れるように思えます。しかし、研究を丁寧に見ていくと、指標には得意な場面と不得意な場面があり、単独で判断するのは危ういことが分かります。

なぜ「頭の疲れ」は見えにくいのか

「頭の疲れ」を測ろうとすると、まず言葉の問題に突き当たります。この記事では、課題が頭に要求する負担を「精神的負荷(メンタルワークロード)」、認知的な活動が長く続いた結果として生じる状態を「精神的疲労」と呼びます。前者は仕事の側の要求、後者は人の側に起きた変化で、同じものではありません。

現場では、次のような困りごとが起きがちです。

  • 忙しそうに見えない人が、実は集中の限界に近づいている
  • 本人の「大丈夫です」という申告と、実際の状態が合っているのか分からない
  • 疲れを見つけたくても、何を見れば良いのか基準がない

精神的疲労は、認知的な負担の大きい活動が長く続いたことで生じる心理生理学的な状態だと整理されています[1]。ここで重要なのは、これが単なる気分ではなく、心理面と生理面の両方にまたがる状態として扱われているという点です。ただし、どの指標に変化が現れるかは、一様ではありません。

指標ごとにセンサーの種類が異なることを表したイラスト
図1 心拍・視線・脳波・皮膚など、測る場所によって得られる情報は異なる

「頭の疲れ」を測る指標は、何がどこまで分かるのか

指標の全体像をつかむには、多くの研究をまとめた総説が役に立ちます。ここでは、精神的負荷を生理指標で測った研究の系統的レビューを見ていきます。

Taoらの系統的レビュー(2019年)は、精神的負荷を生理指標で評価した実証研究を検索して整理したものです。分析対象は91件の研究で、そこから78種類の生理指標が確認されました。指標は、循環器(心拍など)、眼球運動、脳波(EEG)、呼吸、筋電図(EMG)、皮膚の各カテゴリーに分かれます[2]。この論文は被引用が300回を超える、この分野の定番の総説です。

生理指標は数多く使われているが、精神的負荷を捉える指標として妥当かどうかについては、合意が見当たらない。
── Tao ほか(2019)より、要旨の訳

中でも、循環器系、眼球運動、脳波の指標は、さまざまな研究領域で最もよく使われていました。そして、それぞれの指標が精神的負荷と有意に関連したと報告された割合は、次のとおりです[2]。

指標のカテゴリー精神的負荷と有意な関連が報告された割合
循環器(心拍など)76%
眼球運動66%
脳波(EEG)71%

この数字の読み方

どの指標も、報告のおよそ3分の2から4分の3で有意な関連が見られています。裏を返せば、4分の1から3分の1の報告では、関連が確認されなかったということです。

研究の設計(Tao ほか 2019)yaml
type: 系統的レビュー
studies: 91件
measures: 78種類
categories: [循環器, 眼球運動, EEG, 呼吸, EMG, 皮膚]
main_finding: 多くの指標が負荷の変化を区別できるが、すべての課題で有効とは限らない

この表の割合は「有意な関連が報告された研究の割合」です。指標が何割の確率で当たるという意味ではありません。課題の種類や研究の領域が違えば、結果も変わります。

単独の指標で判断してはいけない理由

指標の割合を見ると、「有効な指標を選べば良い」と考えたくなります。しかし、同じレビューの結論は少し違います。

Taoらは、ほとんどの生理指標は精神的負荷の変化を区別できるものの、すべての課題場面で妥当であるとは限らず、研究領域によっても妥当性が異なると述べています[2]。ある課題でよく効いた指標が、別の課題では効かないことがある、ということです。

もう一つ、疲労の側から見た知見があります。Van Cutsemらの系統的レビュー(2017年)は、精神的疲労が身体運動のパフォーマンスに与える影響を調べたもので、被引用が900回を超える定番の総説です。11件の論文が対象で、6件は質が高く、5件は中程度と評価されました。全体として、精神的疲労のもとで持久系のパフォーマンスが低下し、しかも主観的な運動のきつさ(自覚的な努力感)が通常より高いという結果でした。一方、心拍、血中乳酸、酸素摂取量、心拍出量といった、持久力の指標として従来使われてきた生理変数は、精神的疲労の影響を受けていませんでした[3]。

  • 成績と自覚は、疲労で変化した
  • 心拍などの生理変数は、この研究の範囲では変化しなかった

これは、スポーツ領域の研究であり、オフィスの知的作業にそのまま当てはめることはできません。それでも、「疲れているのに、ある生理指標には表れない」ことが起こりうるという重要な示唆を与えます。心拍だけを見て「疲れていない」と判断すれば、見落としが生じる可能性があります。

単独指標が危うい3つの理由

これらの総説から、次のように整理できます。

  1. 01課題や領域によって、有効な指標が変わる[2]
  2. 02疲労は、ある指標には表れて、別の指標には表れないことがある[3]
  3. 03同じ指標でも、有意な関連が見られない研究が一定数ある[2]

だからこそ、複数の指標を組み合わせ、本人の主観的な報告とも突き合わせる必要があります。

現場に持ち込むときの限界

ここまでは、実験室を中心とした研究の話でした。では、この技術を現場に持ち込むとき、何が問題になるのでしょうか。

新しい研究として、2025年に発表された系統的レビュー(Pušicaら)があります。脳波を用いた精神的負荷の機械学習による分類を、課題の種類ごとに比較したものです。まだ被引用が少なく、追試による検証が進んでいる途中の研究です。このレビューによると、この分野には標準的なベンチマーク課題が存在せず、機械学習モデルの性能は課題や方法に大きく左右されるため、手法同士の比較が難しいといいます[4]。

さらに注目すべきは、最も成績の良いモデルでも、複数の課題を同時にこなす状況(マルチタスク)で、精神的負荷を課題の量から評価した研究では、分類の精度が有意に下がっていたことです。単一課題の研究や、主観で負荷を評価した研究と比べても低い結果でした。著者らは、現実の仕事は多かれ少なかれマルチタスクを伴うため、これは実用面で重要だと指摘しています[4]。

別の新しい研究として、2024年に発表された、心拍変動データによる従業員のストレスモニタリングの研究があります。この研究では、公開データセット(SWELL と WESAD)で検証したところ、複数の段階を分けて判定する分類で92.76%と96.76%、ストレスの有無の二値分類で98.52%と99.82%の精度が報告されています[5]。高い数字ですが、これは要旨に書かれた範囲で、公開データセット上の検証結果です。私たちの現場の人や仕事で、同じ精度が出ることを示すものではありません。また、対象は精神的負荷そのものではなくストレスです。

2024年・2025年の研究は、発表から日が浅く、追試や現場での検証が十分ではありません。高い精度の報告があっても、データセットや課題が変われば結果が変わる可能性があります。精度の数値は、他の現場にそのまま当てはまる保証ではありません。

私たちの考え方

私たちは、脳波・心拍に加え、音声やモーションセンサー、主観アンケートを組み合わせるマルチモーダル解析で、人の状態を読み取る取り組みを進めています。ここまで見てきたとおり、それぞれの指標には得意・不得意があるため、一つの指標の高低で人を評価しないという方針です。指標は本人を評価するためではなく、環境を見直す手がかりとして使うものだと考えています。

まとめ:指標は「組み合わせ」と「対話」で使う

「頭の疲れ」は、心拍・視線・脳波などの生理指標である程度は捉えられます。しかし、どの指標も課題や領域によって妥当性が変わり、疲労が一部の指標に表れないこともあります。実験室での高い精度が、マルチタスクを含む現場でそのまま再現されるとも限りません。

明日からできる一歩は、指標を一つ選んで導入することではなく、「何を知りたいのか」「どの課題の場面か」を先に決め、主観的な報告とセットで見ることです。数字はあくまで、本人との対話や環境の見直しのきっかけとして使うのが安全です。

注

  1. Van Cutsem, J. ほか(2017)「The Effects of Mental Fatigue on Physical Performance: A Systematic Review」『Sports Medicine』 https://doi.org/10.1007/s40279-016-0672-0
  2. Tao, D. ほか(2019)「A Systematic Review of Physiological Measures of Mental Workload」『International Journal of Environmental Research and Public Health』 https://doi.org/10.3390/ijerph16152716
  3. Van Cutsem, J. ほか(2017)「The Effects of Mental Fatigue on Physical Performance: A Systematic Review」『Sports Medicine』 https://doi.org/10.1007/s40279-016-0672-0
  4. Pušica, M. ほか(2025)「Machine learning performance in EEG-based mental workload classification across task types: a systematic review」『Frontiers in Neuroergonomics』 https://doi.org/10.3389/fnrgo.2025.1621309(新しい研究)
  5. Khayyat, M. M. ほか(2024)「An improved biometric stress monitoring solution for working employees using heart rate variability data and Capsule Network model」『PLoS ONE』 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0310776(新しい研究)
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この記事を書いた人

Stella Nest 編集部

環境とパフォーマンスの研究を、現場の言葉で伝えます。

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