チームの「多様性」は、成果を高めるのか、それとも損なうのか
設計・研究開発の現場でチームを組むとき、「多様なメンバーを集める」ことは目的ではなく手段です。多様性がいつ成果を高め、いつ損なうのかを、研究の知見から考えます。
Stella Nest 編集部

「専門の違うメンバーを集めれば、良いアイデアが生まれるはずだ」。設計者と施工管理者、研究者とエンジニアを一つのチームに編成するとき、多くの人がそう考えます。しかし実際には、多様なメンバーを集めたのに議論がかみ合わず、かえって停滞するチームも少なくありません。多様性は、それ自体では成果を保証しないというのが、この分野の研究が繰り返し示してきたことです。
なぜ「多様性は成果を高める」と言い切れないのか
建設・設備・不動産の現場や研究開発(R&D)のプロジェクトでは、専門分野・年齢・経験年数の異なる人を組み合わせてチームを編成する場面が数多くあります。その狙いは、一人では出てこない視点や知識を持ち込むことです。しかし、実際の現場では次のような声も聞かれます。
- 専門用語や前提がかみ合わず、議論に時間がかかる
- 意見が割れたまま、誰かの意見に押し切られて終わる
- 多様な人材を集めたはずなのに、以前と変わらないアイデアしか出てこない
研究でも「効果は一定しない」と分かっている
これは現場だけの感覚ではありません。職場における多様性研究を1997年から2005年にかけてレビューした総説では、チームの多様性はチームのプロセスや成果に、良い方向にも悪い方向にも作用しうるとされ、効果がいつどちらに転ぶのかについては、当時なお多くが未解明だと指摘されています[1]。多様性を集めること自体は、良い結果への近道でも、悪い結果への近道でもなく、条件次第でどちらにも転びうるというのが出発点です。

発想の転換:多様性は「両刃の剣」
従来、多様性をめぐる議論は「多様性は良いものだ」「多様性は摩擦を生むから注意が必要だ」という、どちらか一方を推す形で語られがちでした。しかし研究が明らかにしてきたのは、多様性の種類によって効果の善し悪しが決まるのではなく、同じ多様性が良くも悪くも働きうるということです。
この考え方を整理したのが、カテゴリー化・エラボレーション・モデル(CEM)と呼ばれる統合モデルです。このモデルは、メンバーの違いを「自分たちと違う人」として無意識に区別してしまう社会的カテゴリー化の働きと、異なる知識・視点を実際に議論に持ち込み統合していく情報のエラボレーション(深い統合)の働きという、二つの相反するプロセスを一つの枠組みでとらえます[2]。
社会的カテゴリー化から生じる集団間のバイアスは、課題に関連する情報や視点を深く掘り下げて統合していく過程(エラボレーション)を妨げる。
このモデルが示す重要な点は、特定の種類の多様性だけが「良い多様性」あるいは「悪い多様性」であるとは言えないということです。専門性の違いも、年齢や国籍の違いも、統合のプロセスがうまく働けば成果につながり、うまく働かなければ分断につながります。多様性を編成の問題として捉えるだけでなく、統合のプロセスをどう設計するかという視点が必要になります。この視点は、プロジェクトフェーズ別、チーム編成の考え方で紹介した、フェーズに応じてチームの編成と状態を使い分けるという考え方ともつながります。
この「統合のプロセスが働く条件」を具体的に検証したのが、2024年に発表された新しい研究です。
研究の設計
- 01中国国内の複数の組織で、知識労働に携わる215チームを対象に、複数の時点・複数の情報源(メンバー本人とチームの上司など)から調査を実施
- 02チームの「職能の多様性」(メンバーの専門分野の違い)と、チームの外から情報を取り込む「バウンダリー・スパニング・スカウティング(境界を越えた情報探索)」の度合いを測定
- 03チームが「情報を持ち寄り統合することの重要性」をどれだけ共有しているか(多様性マインドセット)によって、その後の情報のエラボレーションとチームのイノベーションへの効果が変わるかを検証
design: multi-wave, multi-source survey
teams: 215
context: knowledge-work organizations (China)
predictors: [functional_diversity, boundary_spanning_scouting]
moderator: team_diversity_mindset
mediator: information_elaboration
outcome: team_innovation見えてきたこと:条件がそろわないと差は出ない
この研究は、情報のエラボレーション──課題に関連する情報や視点を持ち寄り、話し合い、統合していく過程こそが、チームのイノベーションを生む中心的なプロセスだという立場に立っています[3]。そのうえで、チームの中の情報資源として「職能の多様性」と「バウンダリー・スパニング・スカウティング」の二つを取り上げ、それぞれが実際にエラボレーションへとつながるかどうかを検証しました。
| 情報資源の種類 | 多様性マインドセットが高いチームでの効果 |
|---|---|
| バウンダリー・スパニング・スカウティング(外部からの情報探索) | モデルどおりの効果を確認 |
| 職能の多様性(メンバーの専門分野の違い) | 支持されず |
チームの中に専門分野の異なるメンバーがいるという「情報資源」を持っているだけでは、統合が進むとは限らないというのが、この研究が示した結果です[3]。一方で、チーム自身が外部から情報を積極的に取り込みに行く行動(バウンダリー・スパニング)は、統合を重んじる意識が強いチームほど、実際にエラボレーションへとつながっていました。
この研究は中国の組織に所属する知識労働チーム215件を対象にした調査であり、建設・不動産・R&Dの現場にそのまま当てはまるとは限りません。また調査法であるため、多様性マインドセットが原因でエラボレーションが結果とまでは言い切れず、相関関係として読む必要があります。それでも、「多様なメンバーがいる」ことと「多様な視点が実際に統合される」ことは別物だという点は、他の現場でも参考になる知見です。
まとめ:多様性は編成ではなく、統合の設計で決まる
チームの多様性は、それ自体が成果を高めも損ないもしません。成果を分けるのは、異なる知識や視点を実際に持ち寄り、議論の中で統合できるかどうかです。専門分野の違うメンバーを集めるだけで満足せず、意見を持ち寄り、統合する場と進め方を意識的に設計すること。それが、多様性を成果につなげるための次の一歩になります。私たちはこうした統合のプロセスを、チームの状態(Team Fit)として測り、設計に活かす取り組みを進めています。
注
- van Knippenberg, D. & Schippers, M. C.(2006)「Work Group Diversity」『Annual Review of Psychology』 https://doi.org/10.1146/annurev.psych.58.110405.085546
- van Knippenberg, D., De Dreu, C. K. W. & Homan, A. C.(2004)「Work Group Diversity and Group Performance: An Integrative Model and Research Agenda」『Journal of Applied Psychology』 https://doi.org/10.1037/0021-9010.89.6.1008
- van Knippenberg, D., Li, J. & Tu, Y.(2024)「Team informational resources, information elaboration, and team innovation: Diversity mindset moderating functional diversity and boundary spanning scouting effects」『Journal of Occupational and Organizational Psychology』 https://doi.org/10.1111/joop.12541(新しい研究)
