仕事のやり方を自分で調整できると、意欲は上がるのか。ジョブ・クラフティング入門
職務設計や評価制度を変えなくても、現場の裁量で意欲を支える余地はあるのか。ジョブ・クラフティングの総説とメタ分析から、見えてきた効果と、見落としやすい限界を紹介します。
Stella Nest 編集部

「職務内容は変えられないが、やる気は保ってほしい」。現場でも人事でも、そんな板挟みは珍しくありません。では、仕事の進め方を働く人自身が少しずつ調整できるようにすると、意欲は変わるのでしょうか。この記事では、職務設計そのものを動かさずに、現場の裁量で意欲を支える余地があるかを、研究から確かめます。
なぜ「調整の余地」が問題になるのか
職務設計や人員配置は、現場だけでは動かせないことが大半です。一方で、日々の仕事には次のような場面が残っています。
- 同じ職務でも、やり方の選択肢が事実上ひとつしかなく、窮屈に感じる
- 負担の大きい作業と、自分の強みが生きる作業の配分を変えられない
- 周囲に助言や支援を求めてよいのか分からず、抱え込む
こうした状態は、本人の意欲の問題として語られがちです。しかし研究では、意欲や疲弊は仕事の「要求」と「資源」のバランスによって説明されてきました。個人の気持ちの持ちようだけでなく、環境の側の条件として見る視点です。
個人の問題ではなく、仕事の条件の問題かもしれない

この枠組みの詳しい解説は、仕事の要求と資源、何が働く人の意欲と疲弊を分けるのかにまとめています。ここでは、本記事に必要な範囲に絞って確認します。
仕事の「資源」と「要求」から見たジョブ・クラフティング
この節では、ジョブ・クラフティングという考え方を最初に提案した論文と、その後の測定の研究を確認し、そのうえで背景となる JD-R モデルとの関係を整理します。
ジョブ・クラフティングは、Wrzesniewski と Dutton(2001年)が提案した考え方です。この論文は、従業員が認知・課題・関係の「境界」を変えることで自分の仕事を形づくる(クラフトする)と提案し、その動機、機会、個人や組織への影響を示すモデルを示しました[1]。被引用数が3,000回を超える、この分野の定番の論文です。ただし、これはモデルを提案した理論論文であり、効果を数値で確かめたものではありません。
従業員は、認知・課題・関係の境界を変えることで、自分の仕事をクラフトする。
その後、Tims、Bakker、Derks(2011年)が、ジョブ・クラフティングを測るための尺度を開発し、妥当性を検証しています[2]。この論文は被引用数が2,000回を超えますが、ここで紹介できるのは尺度の開発という点までです。
ジョブ・クラフティングとは
2025年に発表された新しい総説(Demerouti)は、ジョブ・クラフティングを、従業員が、自分のスキル・関心・ニーズにより合うように、働く環境を自発的に形づくることと説明しています[3]。上から与えられた職務を前提としつつ、その中で本人が少しずつ調整する、という考え方です。
背景:仕事の「要求」と「資源」
意欲や疲弊を仕事の「要求」と「資源」で説明する JD-R(Job Demands–Resources)モデルは、2001年に提唱されて以来、数千の組織で適用され、数百の実証論文を生んできたと、Bakker と Demerouti(2016年)は振り返っています[4]。同じ論文は、さまざまな仕事の資源が、仕事の要求がバーンアウトに与える影響を和らげる(緩衝する)という証拠を示しています[4]。Bakker らの2022年の総説は、ワーク・エンゲージメントを「活力・熱意・没頭を特徴とする、前向きな動機づけの状態」と位置づけ、今後の課題として JD-R に基づく介入を挙げています[5]。
なお、この2本の総説の要旨にはジョブ・クラフティングという語は出てきません。ここでは、意欲や疲弊を要求と資源のバランスで捉える背景として紹介するにとどめます。
発想の転換:職務を変えずに、調整の余地を設計する
従来は、意欲を支えるには職務の再設計や制度の変更が必要だと考えられがちでした。研究から見ると、別の見方ができます。職務そのものは固定でも、本人が調整できる余地を残すことが、意欲を支える手がかりになりうるのです。
ただし、これは「自由にやらせればよい」という意味ではありません。後述のとおり、調整の仕方によっては負担が増える可能性も指摘されています。
私たちは、環境を物理環境と組織環境の両面から設計することを考えています。仕事の進め方を調整できる余地も、組織環境の一部だと位置づけられます。本人の自律性という観点は、「自分で決めている」感覚は、なぜ働く人の動機を左右するのかでも扱いました。
現場で確認できる3つの問い
介入を考えるときは、次の順で確認します。
- 01調整してよい範囲(時間配分、手順、相談相手など)が、現場で共有されているか
- 02調整の結果として負担が増えていないかを、誰がどう見るか
- 03効果を、何の指標で、いつ確かめるか
見えてきたこと:効果の大きさと、限界
この節では、2024年と2025年に発表された新しい研究を中心に、効果と限界を確認します。いずれも発表から日が浅く、追試による確認はこれからです。
2024年のメタ分析
2024年に発表された新しい研究では、ジョブ・クラフティングを時間をおいて測った縦断研究を集めたメタ分析が行われました。分析対象は66の独立した標本(k = 66)です[6]。
| 結果 | 内容 |
|---|---|
| ジョブ・クラフティング全体と、各側面 | ほとんどの変数と中程度から強い正の相関。バーンアウトと神経症傾向とは負の関連 |
| 「妨げとなる要求を減らす」側面 | すべての対象変数と弱い負の関連。バーンアウトとは中程度の正の関連 |
| 時間による効果の変化 | 相関の大きさに下降傾向はあるが、有意ではない |
注目したいのは2行目です。要求を減らす方向の調整は、ほかの側面とは違う結果を示しました[6]。調整すれば何でも良い、とは言えないということです。
2025年の総説
2025年に発表された新しい総説は、ジョブ・クラフティングの先行要因、良い結果と悪い結果、文化の役割を検討し、効果的な介入をどう設計するかも概説しています[3]。そのうえで、利益を最大にし、仕事量の増加やバーンアウトといった危険を抑えるために、調整の努力のバランスが重要だと強調しています[3]。
ここで紹介した結果の多くは相関であり、調整したから意欲が上がった、という因果を直接示すものではありません。2024年のメタ分析は縦断研究を対象としていますが、要旨からは介入の効果までは読み取れません。また、Wrzesniewski と Dutton の論文は理論モデルの提案です。2024年と2025年の2本は発表から日が浅く、被引用数も少なく、追試による確認の途中です。対象者の職種や国による違いも、要旨からは確認できていません。現場に当てはめる際は、小さく試して測ることをお勧めします。
まとめ:調整の余地は設計できる、ただし測りながら
職務設計を変えられなくても、仕事の要求と資源を本人が調整できる余地を残すことは、意欲を支える手がかりになりうると、現時点の研究は示唆しています。一方で、減らすことに偏った調整や、負担の増加といった落とし穴も指摘されています。
明日からできる一歩は、調整してよい範囲をひとつ決めて共有し、前後で意欲と負担の両方を確認することです。私たちも、この観点を測定とあわせて検証していきます。
注
- Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E.(2001)「Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work」『Academy of Management Review』 https://doi.org/10.5465/amr.2001.4378011
- Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D.(2011)「Development and validation of the job crafting scale」『Journal of Vocational Behavior』 https://doi.org/10.1016/j.jvb.2011.05.009
- Demerouti, E.(2025)「Job Crafting Revisited: Current Insights, Emerging Challenges, and Future Directions」『Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-020924-064242(新しい研究)
- Bakker, A. B., & Demerouti, E.(2016)「Job demands–resources theory: Taking stock and looking forward」『Journal of Occupational Health Psychology』 https://doi.org/10.1037/ocp0000056
- Bakker, A. B. ほか(2022)「Job Demands–Resources Theory: Ten Years Later」『Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-120920-053933
- Silapurem, L. ほか(2024)「Longitudinal Job Crafting Research: A Meta-Analysis」『International Journal of Applied Positive Psychology』 https://doi.org/10.1007/s41042-024-00159-0(新しい研究)
