仕事の要求と資源、何が意欲と疲弊を分けるのか
同じ忙しさでも、燃え尽きる人と意欲を保つ人がいます。その違いを「仕事の要求」と「仕事の資源」で説明する JD-R モデルの知見を、研究の限界とあわせて紹介します。
Stella Nest 編集部

「あのチームは忙しいのに元気で、こちらは同じ忙しさで疲れ切っている」。そう感じたことはないでしょうか。私たちはこの違いを、個人の根性や相性だけでなく、仕事に課されるもの(要求)と、仕事を支えるもの(資源)のバランスという組織環境の側から見ていきます。
なぜ「忙しさ」だけでは説明できないのか
開発の締切前、工期が迫る現場、採用や制度改定が重なる時期。どの職場にも、負荷が高まる時期があります。ところが、負荷の高い時期に起きることは一様ではありません。
- 業務量が多くても、意欲が保たれているメンバーがいる
- 業務量はそれほどでもないのに、仕事への関心を失っていくメンバーがいる
- 負荷を下げる対策をしても、意欲が戻らない
個人の問題ではなく、設計の問題かもしれない
燃え尽き(バーンアウト)は「仕事に対する消耗感と冷めた態度(シニシズム)の状態」、ワークエンゲイジメントは「活力・熱意・没頭という前向きな動機づけの状態」と定義されています[1]。この二つを、個人の資質だけでなく、職場の条件から説明しようとするのが JD-R(Job Demands-Resources:仕事の要求と資源)モデルです。

要求と資源を分けて考えるという発想
従来のストレス研究では、負荷の大きさや、負荷と報酬・裁量とのつり合いを見るモデルが使われてきました。2007年の概説では、要求–コントロールモデルと努力–報酬不均衡モデルの強みと弱みを検討したうえで、より柔軟なモデルとして JD-R モデルが紹介されています[2]。
つまり、従来は「負荷が高いか低いか」を軸に考えがちでした。研究から見ると別の見方ができます。働く人の状態は、要求の大きさだけでなく、資源がどれだけあるかを合わせて見ることで説明しやすくなります。
仕事の条件は、仕事の要求と仕事の資源という二つの大きな種類に分けられ、それぞれが異なる結果と関連している。
研究の手順と条件
JD-R モデルを最初に実証した研究は、次のような手順で進められました[3]。
- 01職場の条件を「要求」と「資源」に分類する
- 02自己評価と、第三者(観察者)による評価の両方で職場の条件を測る
- 03燃え尽きの二つの側面(消耗感、仕事からの離脱)との関連を統計的に検証する
対象: 3つの職種グループ(対人サービス・産業・運輸)
人数: 合計 374 名
測定: 自己評価+観察者による評価
分析: LISREL(構造方程式モデリング)
結果指標: 燃え尽きの2側面(消耗感・離脱)このモデルは特定の職種のためのものではなく、幅広い職業に適用できる枠組みとして整理されています[2]。この概説は、二段階のアプローチが、個人・グループ・部門・組織それぞれの強みと弱みを浮かび上がらせると述べています[2]。
研究から見えてきたこと
この節では、定番の研究が確かめてきたことと、2024年に発表された新しい研究を順に見ます。
定番の研究:要求は消耗と、資源の不足は離脱と結びつく
2001年の研究では、自己評価と観察者評価を用いた分析により、要求は主に燃え尽きの「消耗感」と、資源の不足は主に「離脱」と関連するという結果が得られました[3]。同じようなパターンは、対象とした3つの職種グループのそれぞれで確認されています[3]。
その後の展開を振り返った2016年の論文は、様々な資源が、様々な要求が燃え尽きに与える影響を和らげる(緩衝する)ことを示す証拠を提示しています[4]。この理論は数千の組織に適用され、数百の実証論文を生んできたとされています[4]。さらに2014年の総説では、燃え尽きは健康に関する結果と、ワークエンゲイジメントは動機づけに関する結果と、それぞれより強く関連すると整理されています[1]。
| 観点 | 要求(負荷・締切など) | 資源(支援・裁量など) |
|---|---|---|
| 主に関連する状態(2001年の研究) | 消耗感 | 離脱(資源が不足すると) |
| 影響の和らげ方(2016年の論文) | 資源が要求の影響を緩衝しうる | 要求が及ぼす燃え尽きへの影響を和らげる |
| 関連する結果(2014年の総説) | 燃え尽き:健康の結果とより強く関連 | エンゲイジメント:動機づけの結果とより強く関連 |
2024年に発表された新しい研究
2024年に発表された新しい研究(Human Performance)は、要求と資源の「マッチング」に注目しました。中国の様々な業界で働く1,175名にオンライン調査を行った横断研究です[5]。結果は次のとおりです。
- 資源が要求の影響を強める(調整する)効果は見つからなかった
- 一方で、要求と資源の種類が概念的に合うときの関連(「概念的マッチ」)は確認された
- 要求や資源と結果の間に曲線的な関係も見られたが、予想とは異なる形だった
著者らは、要求と資源を直線的にも非直線的にも合わせて考えることが、活力や持続的なパフォーマンスの予測に重要だと結論づけています[5]。
同じく2024年の研究(Journal of Occupational and Organizational Psychology)は、仕事の中で自分から仕事のやり方を工夫する行動(クラフティング)に注目しました。2,125名を対象に3か月間隔で3回の質問紙調査を行い、工夫の活発さで「活発」(18.0%)、「平均的」(48.2%)、「最も不活発」(33.9%)の3群を見いだしています[6]。活発な群は、平均的な群や最も不活発な群より精神的な健康度が有意に高く、最も不活発な群よりワークエンゲイジメントも高い結果でした[6]。著者らは、従業員の資源を高める介入が工夫する行動を促し、最終的にウェルビーイングの向上につながりうると述べています[6]。
これらの新しい研究はいずれも質問紙調査で、発表から日が浅く、知見が確立したとは言えません。2024年のマッチングの研究は横断研究のため、因果は示せず、対象は中国の従業員に限られます。資源が影響を調整する効果も見つかっていません。定番の研究も、対象と業種によって結果が異なる可能性があります。自社に当てはめるときは、まず小さな範囲で確かめてください。
まとめ:負荷だけでなく、支えも設計する
働く人の意欲と疲弊を分けるのは、忙しさそのものではなく、要求と資源の組み合わせだと考えるのが、多くの研究で繰り返し確かめられてきた見方です。負荷を下げる対策が効かないとき、資源が足りているか、要求と資源の種類が合っているかを見直してみてください。
明日からできる一歩は、チームごとに「要求になっているもの」と「資源になっているもの」を書き出すことです。私たちは、こうした状態を主観のアンケートに加えて、生体や行動のデータからも捉えることを検討しています。関連する視点は心理的安全性は本当にチームを強くするのかでも紹介しています。
注
- Bakker, A. B., Demerouti, E., & Sanz-Vergel, A. I.(2014)「Burnout and Work Engagement: The JD–R Approach」『Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-031413-091235
- Bakker, A. B., & Demerouti, E.(2007)「The Job Demands-Resources model: state of the art」『Journal of Managerial Psychology』 https://doi.org/10.1108/02683940710733115
- Demerouti, E. ほか(2001)「The job demands-resources model of burnout」『Journal of Applied Psychology』 https://doi.org/10.1037/0021-9010.86.3.499
- Bakker, A. B., & Demerouti, E.(2016)「Job demands–resources theory: Taking stock and looking forward」『Journal of Occupational Health Psychology』 https://doi.org/10.1037/ocp0000056
- Ji, T. ほか(2024)「Matching Job Demands and Job Resources as Linear and Non-linear Predictors of Employee Vigor and Sustainable Performance」『Human Performance』 https://doi.org/10.1080/08959285.2024.2332683(新しい研究)
- Ho, K. L. ほか(2024)「Job and off-job crafting profiles: Time-lagged relationships with job, home and personal resources and well-being outcomes」『Journal of Occupational and Organizational Psychology』 https://doi.org/10.1111/joop.12506(新しい研究)
