社員の「組織への愛着」はどこから生まれ、何を左右するのか
組織への愛着は、ひとつの気持ちではありません。引用の多い定番の研究と、2024年の新しい研究から、愛着の種類と、人事・R&D・現場マネジャーが施策を考える視点を整理します。
Stella Nest 編集部

「あの人は会社に愛着があるから辞めないだろう」。そう思っていたメンバーが、ある日突然退職を申し出る。逆に、不満を口にしながら長く在籍し続ける人もいます。「愛着」という一つの言葉でくくると、組織に残る理由の違いが見えなくなるのかもしれません。
愛着は一種類ではない
この節では、組織心理学で「組織コミットメント」と呼ばれる愛着の考え方を、三つの成分に分けて整理します。
1990年に Allen と Meyer が発表した論文[1]は、組織コミットメントを三つの成分からなるモデルとして示しました。この論文は被引用が1万回を超える、この分野の定番です。要旨によると、三つの成分は次のように定義されています。
| 成分 | 中身(論文の定義) | 現場でのイメージ |
|---|---|---|
| 情緒的コミットメント | 組織への情緒的な愛着、同一視、関与 | 「この組織が好きだから残る」 |
| 継続的コミットメント | 辞めることに伴うコストの認識にもとづく | 「辞めると失うものが大きいから残る」 |
| 規範的コミットメント | 組織にとどまるべきだという義務感 | 「恩義があるから残る」 |

同じ論文は、情緒的と継続的の二つは実証的に区別でき、それぞれ異なる要因と関連することを報告しています。情緒的と規範的は区別できるものの、いくらか関連が見られたとも述べています。そして、成分を区別することの重要性を、研究にも実務にも向けて論じています。
「在籍している」ことと「愛着がある」ことは違う
在籍年数や離職率だけを見ていると、三つの成分は区別できません。三種類の愛着が混ざったまま、同じ「定着」として数えられてしまうからです。研究者が成分を分けて測ろうとしてきたのは、このためです。
研究が示してきたこと:離職と、愛着を左右するもの
この節では、愛着と離職の関係、そして何が愛着と結びつくのかを、メタ分析から見ていきます。
2002年に Meyer らが発表したメタ分析[2]は、被引用が6,900回を超える、この分野の定番のメタ分析です。メタ分析とは、複数の研究の結果を統計的にまとめる方法で、一つの研究よりも確かな根拠になります。この研究は、三つの成分のいずれかの尺度を使った155件の研究報告を対象にしました。報告されている主な結果は次のとおりです。
- 三つの成分はいずれも、職務満足、職務への関与、組織コミットメントに関わる変数などと強い相関を示した
- 三つの成分はいずれも、職場からの離脱行動(withdrawal)と離職に対して負の関係にあった
- 知覚された組織的支援(組織が自分を支えてくれているという認識)は、情緒的コミットメントと最も強い正の相関を示した
知覚された組織的支援は、情緒的コミットメントと最も強い正の相関を示した。
人事・R&D・現場マネジャーはどう読むか
ここから先は、論文の結果にもとづく私たちの読み方です。論文が直接示した結論ではありません。
まず、離職の抑制だけが目的なら、三成分はどれも離職と負の関係にあります。ただし、辞められない理由(継続的)で在籍している人と、残りたい理由(情緒的)で在籍している人では、職場での姿が同じとは限りません。要旨からは成分ごとの強さの差までは分からないため、ここでは断定しません。
次に、愛着を高める方向を考えるなら、支援されているという認識が情緒的な愛着と最も強く結びついていた点が手がかりになります。上司との面談、研究開発の環境、評価の伝え方など、メンバーが「支えられている」と感じる場面が、人事とマネジャーの共通の検討対象になります。なお、これは相関であり、支援を増やせば愛着が高まると結論づけられるわけではありません。
新しく加わった人の「なじみやすさ」については、新しく組織に加わった人が「なじむ」条件とは何かでも扱っています。
愛着と「やる気」「消耗」は別のもの
この節では、愛着と近い概念であるワーク・エンゲージメントとバーンアウトを、混同しないために整理します。
2014年に Bakker らが発表した総説[3](被引用2,400回超)によると、バーンアウトは仕事に対する消耗と冷めた態度の状態、エンゲージメントは活力・熱意・没頭という前向きな動機づけの状態と定義されています。要旨では、どちらも重要な仕事関連の結果と関連するものの、バーンアウトは健康面の結果と、エンゲージメントは動機づけに関する結果と、より強く関連するように見えると述べられています。
組織への愛着が高くても、仕事で消耗している人はいるかもしれません。愛着の度合いだけで、メンバーの状態を判断することはできません。愛着を測るアンケートに加えて、消耗や集中といった状態も別の指標で見る必要があります。この点は、バーンアウトの兆候は、行動データから読み取れるかの記事も参考になります。
新しい研究:報酬制度と愛着、離職意向
この節では、2024年に発表された新しい研究を紹介します。
2024年に発表された新しい研究[4]は、報酬制度、従業員のコミットメント、離職意向の関係を調べました。セルビア共和国の従業員764人にオンライン質問紙で回答を求めたものです。結果は次のとおりです。
| 関係 | 結果(要旨より) |
|---|---|
| 報酬制度 → コミットメント | 統計的に有意な正の関係 |
| 報酬制度 → 離職意向 | 統計的に有意な負の関係 |
| コミットメントの役割 | 報酬制度と離職意向の関係を、部分的に媒介する |
この研究は2024年の発表で、追試が十分に重ねられているとはいえません。調査は質問紙による一時点の回答であり、「離職意向」は実際の離職そのものではありません。著者らも、高い権力格差や不確実性回避が特徴とされるセルビアの文化的文脈に根ざした研究だと述べています。日本の職場にそのまま当てはめられるかは、確かめられていません。定番のメタ分析と合わせて、「報酬のような処遇が愛着を介して離職意向に関わる可能性がある」という一つの手がかりとして読むのが妥当です。
まとめ:愛着は、種類と文脈で見る
組織への愛着は、情緒的・継続的・規範的という三つの成分に分けて見ると、離職との関係を整理しやすくなります。三つはいずれも離職と負の関係にあり、組織からの支援の認識は情緒的な愛着と最も強く結びついていました。ただし、これらは相関の知見で、施策の効果を保証するものではありません。
明日からできる一歩は、「定着率」だけで見るのをやめ、メンバーが残っている理由を成分ごとに把握してみることです。私たちは、アンケートに加えて、生体や行動のデータも組み合わせて、メンバーの状態を多面的にとらえる計測を考えています。愛着の中身を知ることが、施策を選ぶ出発点になるはずです。
注
- Allen, N. J., & Meyer, J. P.(1990)「The measurement and antecedents of affective, continuance and normative commitment to the organization」『Journal of Occupational Psychology』 https://doi.org/10.1111/j.2044-8325.1990.tb00506.x
- Meyer, J. P. ほか(2002)「Affective, Continuance, and Normative Commitment to the Organization: A Meta-analysis of Antecedents, Correlates, and Consequences」『Journal of Vocational Behavior』 https://doi.org/10.1006/jvbe.2001.1842
- Bakker, A. B. ほか(2014)「Burnout and Work Engagement: The JD–R Approach」『Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-031413-091235
- Berber, N., & Gašić, D.(2024)「The mediating role of employee commitment in the relationship between compensation system and turnover intentions」『Employee Relations』 https://doi.org/10.1108/er-05-2023-0270(新しい研究)
