組織環境の設計公開 約9分で読めます

新しく組織に加わった人が「なじむ」条件とは何か

入社・異動から数か月、なじめる人とそうでない人の違いはどこにあるのか。組織社会化とperson-environment fitの研究から、「なじむ」までに何が効くのかを整理し、受け入れ設計への示唆を考えます。

Stella Nest 編集部

中途で入った人が、3か月経っても会議で発言できない。異動してきた人が、以前の部署のやり方をなかなか手放せない。こうした状態を「本人の性格」や「やる気」の問題として片付けてしまうと、受け入れ側にできることが見えなくなります。「なじむ」は個人の資質ではなく、本人と組織との関係のなかで作られていくプロセスだと捉え直すと、オンボーディングの設計に手がかりが生まれます。

なぜ「なじむ」がうまくいかないのか

多くの職場でオンボーディングは、業務マニュアルの整備や、メンター役の配置といった「スキル・知識の移転」を中心に設計されています。しかし、現場で起きている「なじめなさ」は、それだけでは説明のつかない形で表れます。

  • スキルも経験も十分なのに、会議での発言が徐々に減っていく
  • 「ここでは浮いている」という感覚が抜けず、早期の離職につながる
  • 人事や上司が、こうした状態を「本人の性格の問題」として処理してしまう

個人の性格ではなく、組織との「相互作用」の問題

組織心理学では、人が新しい環境で「ここでの自分」を確立していく過程を、個人だけの内面の作業ではなく、組織との相互作用として説明します。組織行動学の総説によると、組織は新しく加わった人が持ち込んでいた思い込みを揺さぶり(センスブレイキング)、新しい文脈で必要になる手がかりを与え(センスギビング)、本人はそれをもとに「ここでの自分」を意味づけていく(センスメイキング)、という一連の過程が起きています[1]。つまり「なじめるかどうか」は、本人の適応力だけでなく、組織側がどれだけ手がかりを与えられているかにも左右されるということです。

新しく加わったメンバーが、既存のメンバーと机を囲んで話している様子
図1 なじみは、本人と組織の双方向のやり取りのなかで作られていく

この視点に立つと、オンボーディングで見るべきなのは「本人が順応できているか」だけではなく、「組織が本人に、意味づけの材料をきちんと渡せているか」という点にもなります。次に、この「なじみ」がいつ、どのように成立するのかを、もう少し詳しく見ていきます。

発想の転換:フィットは「入社時」に決まるものではない

採用面接での「カルチャーフィット」判定のように、person-environment fit(個人と環境の適合)は、しばしば入社時の一時点で判定されるものとして扱われます。しかし、この分野の系統的レビューは、個人と環境の適合を、入社時に決まる静的な状態としてではなく、時間とともに変化していく関係として捉え直す必要があると指摘しています[2]。適合の変化のしかたには、段階を経て変わる「推移的」なもの、経験を積んで育っていく「発達的」なもの、価値観そのものが変わる「変容的」なものがあり、さらに「今この場面での適合」なのか「本人にとっての基準となる適合」なのかという水準の違いや、時計の時間で測るか、本人にとっての心理的な時間で測るかという違いもあります[2]。

なじみを「合う・合わない」の二択で判定するのではなく、時間軸のなかで育っていくものとして見る発想は、当社が中途・異動者の受け入れを考えるうえでも重視している視点です。私たちは、個人の適応特性とチームとの関係を継続的に捉え直す枠組みで、この「育っていく適合」を可視化する検証を進めています。この「なじみ」を支えるもう一つの手がかりが、周囲からの反応です。エドモンドソンの心理的安全性研究を扱った心理的安全性は本当にチームを強くするのかでも触れたように、対人関係のリスクを取っても安全だという感覚は、チーム全体の学習行動を左右します。新しく加わった人にとっても、自分の言動が周囲にどう受け止められるかは、なじみの過程を大きく左右する要素です。

もし本人の言動や語りが周囲から社会的に承認されれば、本人はより確信を強め、形成されつつあるアイデンティティが固まっていく。こうした力学の結果として、その場での自分についての実感を伴う理解が生まれ、適応が進んでいく。
── Ashforth & Schinoff(2016)より、訳

人は、過去の自分と現在の自分を、こうありたいという将来像へとつなぐ「アイデンティティの物語」を作り上げていくとも指摘されています[1]。新しく加わった人が語る「これまでの経験」と「ここで実現したいこと」を、周囲がどう受け止め、どう反応するか。その積み重ねが、なじみを進めるか止めるかを分けるということです。

なじみの過程で起きていること

先の総説が整理する枠組みを踏まえると、なじみの過程は次のような順序で捉えられます。

  1. 01組織が、本人が持ち込んでいた「ここではこうだろう」という思い込みを揺さぶる
  2. 02組織が、新しい文脈で必要になる手がかり(規範・期待・関係性の情報)を渡す
  3. 03本人がそれを意味づけ、感情・行動・思考の面で「ここでの自分」を一致させていく
temporal fit の整理(Vleugels et al., 2022)yaml
change_process: [推移的, 発達的, 変容的]
level_of_aggregation: [その場面での適合, 本人にとっての基準となる適合]
temporal_frame: [時計の時間, 本人にとっての心理的な時間]

このように、なじみは一度の判定で終わるものではなく、複数の時間軸のなかで進んでいく過程だと分かります。では、この過程についての研究は、実際に何を明らかにし、何を明らかにできていないのでしょうか。

見えてきたこと

person-environment fitの研究は長く蓄積されてきましたが、その中身には偏りがあることも分かっています。先の系統的レビューは、この分野の研究が選考や組織社会化の場面に偏って注目してきたこと、個人間の違いの分析に偏っていたこと、変化を単純な直線的なものとして捉えがちだったこと、そして「合っていない状態(ミスフィット)」そのものへの注目が不足していたことを、この分野が抱える課題として挙げています[2]。つまり、「入社直後にどれだけ合っているか」は比較的よく調べられている一方で、「時間が経つにつれて、合っていた状態がどう変化するか」「合わなさをどう捉え、どう扱うか」は、まだ十分に分かっていないということです。

これを踏まえると、オンボーディングを「入社後数週間の初期対応」として設計するだけでは不十分だと分かります。この点について、2025年に発表された新しい研究では、働き方そのものの変化が組織社会化の前提を揺さぶっていると指摘されています。この研究は、技術の進展、リモートワークの拡大、社会的な孤立や心の健康上の課題の高まり、労働力の高齢化という4つの潮流を挙げ、これらが組織社会化の従来の前提と噛み合わなくなってきていると論じています[3]。

従来のオンボーディングの前提揺さぶられている背景
同じ場所に集まり、対面でなじんでいくリモート・ハイブリッドな働き方の広がり
先輩・同僚との自然な接点でなじむ孤立や心の健康上の課題の高まり
若手中心の、画一的な受け入れプロセス労働力の高齢化と経験・世代の多様化

そのうえでこの研究は、こうした変化のなかで新しく加わった人の「適応力」と「つながりを築く力」が、これからのオンボーディングを左右する重要な要素になると位置づけています[3]。

この2025年の研究は、これまでの研究や実務上の課題を整理し、今後の研究の方向性を示した論考であり、特定の企業や集団を対象にした実証データを新たに示したものではありません。また、person-environment fitの系統的レビューが指摘するとおり、なじみが時間とともにどう変化するか、合わなさがどう扱われるかについては、まだ研究の蓄積が薄い領域です。本記事で紹介した知見も、個々の職場にそのまま当てはまるとは限らず、実際の受け入れ設計では、自組織の状況に合わせた検証が必要です。

まとめ:なじみは、設計できる過程である

「なじむ」は、本人の性格や資質だけで決まるものではありません。組織が手がかりをどう渡すか、周囲がどう反応するか、そしてその適合を一時点ではなく時間軸のなかでどう捉えるか——これらの積み重ねが、なじみを進めるか止めるかを分けます。中途・異動者の受け入れを設計する立場から見れば、初日の説明会や初月の面談だけで終わらせず、数か月にわたって「なじみの状態」がどう変化しているかを継続的に確かめる視点を持つことが、次の一歩になります。

注

  1. Ashforth, B. E., & Schinoff, B. S.(2016)「Identity Under Construction: How Individuals Come to Define Themselves in Organizations」『Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1146/annurev-orgpsych-041015-062322
  2. Vleugels, W. ほか(2022)「A systematic review of temporal person-environment fit research: Trends, developments, obstacles, and opportunities for future research」『Journal of Organizational Behavior』 https://doi.org/10.1002/job.2607
  3. Bauer, T. N. ほか(2025)「The Evolving Future of Work: Implications for Newcomer Adaptability and Connectivity During Organizational Socialization」『Human Resource Management』(新しい研究) https://doi.org/10.1002/hrm.70008
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この記事を書いた人

Stella Nest 編集部

環境とパフォーマンスの研究を、現場の言葉で伝えます。

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