オープンプランオフィスは集中と交流のどちらを取る問題か
間仕切りのない席配置は、交流を促す一方で、騒音やプライバシーへの不満も生みます。大規模な居住者調査と総説から、トレードオフの中身と、設計判断への示唆を整理します。
Stella Nest 編集部

「席を自由にしたのに、集中できないという声が増えた」。間仕切りをなくせば会話が増えるはずなのに、なぜ不満が出るのでしょうか。私たちはこの問いを、集中か交流かの二者択一ではなく、「何が・どれだけ失われるか」を測る問題として捉えています。
「オープンにすれば交流が増える」という期待
まず、オープンプランオフィスがなぜ選ばれ、現場でどんな不満が出やすいのかを整理します。
オープンプランには、壁がなくなることで同僚との会話が増えるという期待が寄せられることがあります。一方で、オープンな空間では、一般に次のような不満が挙がりやすいと考えられます。
- 周囲の会話や電話の声が気になり、考え事が途切れる
- 話の内容を周りに聞かれていそうで、相談しづらい
- 画面や手元を見られている感じがして落ち着かない
期待は、どこまで確かめられているか
Kim と de Dear は、2013年の論文で、この「交流が増える」という通念を、居住者調査のデータで検証しました[1]。以下では、この論文を中心に見ていきます。

研究が示したこと
ここでは、大規模な居住者調査から分かった、レイアウトごとの満足度の違いを紹介します。
約4万2千件の調査
分析に使われたのは、米国の研究機関 CBE(Center for the Built Environment)が集めた居住後評価の調査データです。このうちオフィスビルの部分、303棟・42,764件の回答が使われました。席の配置は、個室、2〜3人の共有室、高い間仕切りのあるキュービクル、低い間仕切りのあるキュービクル、間仕切りのない(または限られた)オープンオフィスの5種類に分けられています[1]。
data: CBE 居住後評価アンケート(オフィスビル)
samples: 42,764
buildings: 303
layouts:
- 個室
- 共有室
- 高い間仕切りのキュービクル
- 低い間仕切りのキュービクル
- 間仕切りなし/限定的
method: 満足度の比較、回帰分析音とプライバシーへの不満
論文の結論は明快です。個室はオープンプランより、特に音・プライバシー・対人距離に関わる項目で、ほとんどの項目で上回っていました。さらに、交流のしやすさがもたらす利点は、騒音の増加とプライバシーの低下による不利益より小さかったと報告されています[1]。
| レイアウト | 「音のプライバシー」に不満を持つ人の割合 |
|---|---|
| 高い間仕切りのキュービクル | 59% |
| 低い間仕切りのキュービクル | 58% |
| 間仕切りなし/限定的 | 49% |
また、「交流のしやすさ」への満足度は、オープンプランでも個室より高くはありませんでした。壁をなくしても、交流しやすいと感じる人が増えるとは限らないことになります。
間仕切りを高くしても満足度は上がらない
意外な点もあります。キュービクルのうち高い間仕切りのものは、15の評価項目のうち13項目で、満足度がもっとも低い結果でした[1]。つまり、「囲えば満足度が上がる」という単純な話ではなく、間仕切りの種類ごとに、居住者がどう感じているかを具体的に確かめる必要があることが示唆されます。自社のオフィスを見直すときも、レイアウトの名前だけで判断せず、満足度を項目ごとに見ていくことが出発点になります。
この調査は、居住者の主観的な評価にもとづく横断的なものです。回答者の仕事内容などの条件までは分からず、レイアウトが満足度の原因だと断定することはできません。また、個室でも音のプライバシーへの不満が18%あったことから、「壁があること」と「音が守られること」も別の問題だと分かります。
「どちらを取るか」を超えて
次に、ここまでの知見を設計判断にどうつなげるかを考えます。
音以外の要素も同時に効く
Al Horr らは、300本を超える論文を整理した総説で、オフィスの居住者の生産性に影響する室内環境の要因として8つを挙げました[2]。この総説の要旨からは、各要因の影響の大きさの比較までは読み取れませんが、音だけを切り離して判断しないことの重要性は示唆されます。
従来の考え方と、私たちの考え方
従来は「集中のために囲う」か「交流のために開く」かが議論の中心でした。私たちは、同じフロアでも、場所・時間・人によって求められる静けさが違うと考えています。そのため、一律のレイアウトで決めるのではなく、まず状態を測り、そのうえで設計することを提案しています。音の面では、遮るのではなく加工音を重ねる発想もあります。詳しくは「音のカーテン」はなぜ会話を守れるのかをご覧ください。
交流のしやすさがもたらす利点は、騒音の増加とプライバシーの低下による不利益より小さかった。
新しい研究:音を「測る」方法
2024年に発表された新しい研究は、オフィスの音環境をどう評価しているかを整理した系統的レビューです[3]。Rachman らは41件の研究を調べ、主観的な評価ではアンケートが36件と最も多く、客観的な評価では直接の音響測定が28件、認知課題が14件で使われていたと報告しています。
評価に関わる要因は、音響的な要素と、そうでない要素に分けられています。著者らは同時に、オフィスの音環境を評価する方法の標準化は、まだ初期段階にあるとも述べています。
このレビューは2024年に発表されたもので、被引用はまだ多くありません。扱っているのは評価の「方法」であり、オープンプランが良いか悪いかの結論を示すものではありません。確かめられている途中の知見として受け取ってください。
つまり、現場でも「不満が出た」の一言で終わらせず、主観の評価と音の測定を組み合わせて把握するのが妥当だと考えられます。
まとめ:交流か集中かの前に、不満の中身を測る
オープンプランでは、音とプライバシーへの不満が大きく、交流の利点がそれを上回るとは限らないことが、大規模な調査から示されています。ただし、これは満足度の調査であり、実際の業務成果を示すものではありません。まずは自社のオフィスで、どの場所・どの時間帯に、何への不満が出ているのかを、アンケートと音の計測で確かめることが、設計判断の第一歩になります。
関連する話題として、オフィス移転を、組織変革の機会にする3つの視点もあわせてご覧ください。
注
- Kim, J., de Dear, R.(2013)「Workspace satisfaction: The privacy-communication trade-off in open-plan offices」『Journal of Environmental Psychology』 https://doi.org/10.1016/j.jenvp.2013.06.007
- Al Horr, Y. ほか(2016)「Occupant productivity and office indoor environment quality: A review of the literature」『Building and Environment』 https://doi.org/10.1016/j.buildenv.2016.06.001
- Rachman, Z. A. ほか(2024)「Exploring Soundscape Assessment Methods in Office Environments: A Systematic Review」『Buildings』 https://doi.org/10.3390/buildings14113408(新しい研究)
