物理環境の設計公開 約9分で読めます

オフィスに緑を置くと、ストレスと集中はどう変わるか

観葉植物や緑の壁は、ストレスや集中にどこまで効くのか。定番の総説と新しい研究から、バイオフィリックデザインで確かめられていることと、まだ分かっていないことを整理します。

Stella Nest 編集部

「緑を増やせば、社員の気持ちも落ち着くのでは」。オフィスの改修で、そんな声が上がることは少なくありません。けれども、観葉植物や緑の壁にはコストがかかり、効果が見えにくいのも事実です。この記事では、「効く」と言える範囲と、まだ言えない範囲を分けて、投資判断に使える形で整理します。

なぜ「緑」の判断は難しいのか

この節では、緑の導入を検討するときに現場で起きがちな困りごとと、その背景にある研究の状況を見ます。

  • 「癒やされる」という感覚的な理由だけでは、経営層への説明が通りにくい
  • 植物を置くのか、窓からの眺めを確保するのか、木材を使うのか、何を「自然」と呼ぶかが人によって違う
  • 導入後に効果を測る方法が決まっておらず、「置いただけ」で終わる

「自然」の中身が広く、議論が続いている

バイオフィリックデザイン(人が本来もつ自然への親近感を、建築や空間に取り入れる設計の考え方)は、この10年ほどで建築分野の注目を集めてきました。一方で、2021年の批判的な総説[1]は、「自然」を実務や研究でどう概念化し扱うかについて、未解決の問いや論争が残っていると述べています。

つまり、「緑を置けば効く」という単純な話ではなく、そもそも何を効果の原因と見るかが、研究者の間でも整理の途中にあります。

窓の外の木々と机の上の植物を見て、気持ちが落ち着く様子を表したイメージ
図1 自然を目にすることでストレスが和らぎ、注意が回復するという考え方のイメージ

発想の転換:「装飾」ではなく「回復の場」と考える

この節では、緑を装飾ではなく、ストレスや疲れからの回復を助ける環境要素として見る研究の枠組みを紹介します。

緑を「見た目を良くするもの」と考えると、効果の議論は好みの問題になります。研究から見ると、別の見方ができます。自然に触れることを、ストレスと注意疲れからの「回復の機会」として設計するという見方です。

心理学の側には、二つの代表的な理論があります。ストレスからの回復に注目する「ストレス回復理論」と、使い果たした注意力の回復に注目する「注意回復理論」です。2014年の総説[2]は、自然環境に触れることと、生理的なストレスや精神的な疲れからの回復との間に強い証拠があるとして、この両方の理論を支持すると述べています。

自然環境への接触と、生理的ストレスや精神的疲労からの回復との間に、強い証拠が見いだされている。
── Berto(2014)より、要旨の訳

この総説は、多く引用され、この分野で確立した知見として扱われています。ただし、対象は主に自然の風景や自然環境に触れる実験であり、オフィスに置く数鉢の植物にそのまま当てはまるとは限りません。

「緑」だけではない、バイオフィリックデザイン

2021年の総説[1]は、バイオフィリックデザインが「建物に植物を使うこと」だけよりも複雑で豊かであり、物理的、感覚的、比喩的、形態的、素材的、精神的といった、さまざまな種類の自然を含むと整理しています。導入を考えるときは、次のように選択肢を分けると議論しやすくなります。

  1. 01何を「自然」として取り入れるのかを決める(植物、眺め、自然光、素材、形など)
  2. 02何が変わってほしいのかを決める(ストレス、集中、満足度など)
  3. 03導入の前後で、その指標をどう測るかを決める
総説の条件(Zhong ほか 2021)yaml
type: critical review
topic: biophilic design in architecture
scope: [health, well-being, sustainability]
nature_types: [physical, sensory, metaphorical, morphological, material, spiritual]

見えてきたこと:効果の証拠と、その限界

この節では、ストレスと集中に関する定番の知見と、2024〜2025年の新しい研究を並べ、証拠の強さの違いを確認します。

まず、定番の総説からは次のことが読み取れます。

  • 自然の風景に触れると、ストレスによる否定的な気分が和らぎ、肯定的な感情が高まる[2]
  • ストレスで下がった認知パフォーマンス、とくに注意を要する課題での低下が、自然を見ることで回復しうる[2]
  • 自然要素の存在といった一部の特徴には多くの証拠がある一方、自然素材や自然のプロセスといった他の特徴には、実証的な証拠が不足している[3]
論文種類分かっていること限界・注意点
Berto(2014)[2]文献レビュー自然への接触と、ストレス・精神的疲労からの回復に強い証拠主に自然環境や風景を見る研究
Gillis, Gatersleben(2015)[3]文献レビュー自然要素の存在には多くの証拠自然素材などは証拠が不足
Zhong ほか(2021)[1]批判的総説バイオフィリックデザインは、多様な種類の「自然」を含む概念や実践に未解決の論点

2024〜2025年の新しい研究

2024年に発表された新しい研究として、没入型の仮想現実(VR)でバイオフィリックデザインを調べた研究の系統的レビューがあります[4]。このレビューは、環境の知覚、生理・心理の指標、認知機能への影響を対象としていますが、研究は増えているものの断片的で、実験の設計や方法がばらばらだと指摘しています。VR は条件を統制しやすい反面、実際の職場そのものではありません。

2025年に発表された新しい研究[5]は、米国ミネソタ州の博物館の職場を対象に、バイオフィリックデザインの戦略と、室内環境の質、満足度、仕事の成果、健康との関係を、従業員へのアンケートで調べた事例研究です。物理環境への満足度(平均6.29)、仕事の成果への好ましい影響(平均5.89)、健康全般の改善(平均5.35)という結果でした。自然光、自然素材とのつながり、空間の構成が有効な戦略として挙げられています。

2025年の研究は、一つの建物での事例研究で、従業員の認識をたずねたアンケートです。要旨から、点数の尺度や比較対象(緑のない環境)の有無は確認できません。効果は自己申告が中心で、因果を示すものではありません。2024年のVR研究も含め、新しい研究は追試がまだ少なく、確かめられている途中です。

投資判断に使える範囲

判断に使える範囲は、次のように分けられます。

  • 使える:自然に触れることが、ストレスや注意疲れからの回復に役立つ可能性がある、という一般的な方向性
  • 慎重に使う:特定の植物の量や種類による「集中の向上」の程度。オフィスでの数値的な効果は、今回確認した論文からは示せません
  • 使わない:「緑を置けば生産性が上がる」という断定

私たちは、導入を決める前に「何を、どの指標で、いつ測るか」を決め、導入前後で比べることが、緑への投資を説明可能にする現実的な方法だと考えています。音や光と同じく、環境の効果は測って初めて、設計に使える知見になります。光環境の考え方はオフィスの光環境は、体内時計と仕事のパフォーマンスをどう変えるかでも扱っています。

まとめ:緑は「効くかもしれない」を測って確かめる

自然に触れることが、ストレスや注意疲れからの回復を助けるという知見は、定番の総説で強い証拠があるとされています。一方で、オフィスの緑がストレスや集中をどれだけ変えるかは、今回確認した研究では自己申告が中心で、まだ確かとは言えません。

明日からできる一歩は、緑を増やす前に、変化してほしい指標を一つ決めることです。主観のアンケートに、可能なら心拍などの生体データを組み合わせて、導入前後を比べてみてください。

注

  1. Zhong, W. ほか(2021)「Biophilic design in architecture and its contributions to health, well-being, and sustainability: A critical review」『Frontiers of Architectural Research』 https://doi.org/10.1016/j.foar.2021.07.006
  2. Berto, R.(2014)「The Role of Nature in Coping with Psycho-Physiological Stress: A Literature Review on Restorativeness」『Behavioral Sciences』 https://doi.org/10.3390/bs4040394
  3. Gillis, K., Gatersleben, B.(2015)「A Review of Psychological Literature on the Health and Wellbeing Benefits of Biophilic Design」『Buildings』 https://doi.org/10.3390/buildings5030948
  4. Di Giuseppe, E. ほか(2024)「Evaluating Biophilic Design strategies in Immersive Virtual Indoor Environments: A systematic review on the implications for buildings occupants」『Journal of Building Engineering』 https://doi.org/10.1016/j.jobe.2024.111127(新しい研究)
  5. Asojo, A. O., Hazazi, F.(2025)「Biophilic Design Strategies and Indoor Environmental Quality: A Case Study」『Sustainability』 https://doi.org/10.3390/su17051816(新しい研究)
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環境とパフォーマンスの研究を、現場の言葉で伝えます。

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