物理環境の設計公開 約11分で読めます

座りっぱなしの仕事は、昇降デスクで変わるのか

昇降デスクを入れれば、座りっぱなしは解消するのか。座位時間と健康の関係、環境介入の効果、2024年の新しい無作為化試験の結果と限界を、論文に当たって整理します。

Stella Nest 編集部

「気づけば、午前中ずっと椅子から立っていない」。デスクワーク中心の職場では、ごく普通の光景です。では、座る時間を減らすために昇降デスクを導入すれば、何が変わるのでしょうか。この記事では、座位時間そのものと、座位を減らす環境介入の効果を分けて、論文に当たって整理します。

座る時間は、どこまで問題とされているのか

この節では、座り続けることと健康の関係について、総説とガイドラインで何が言われているかを確認します。

職場で座る時間が長いことについて、現場からは次のような声が聞かれます。

  • 会議や資料作成が続くと、数時間立たないことがある
  • 立つきっかけがなく、自分の意思だけでは座る時間を変えにくい
  • 昇降デスクを入れても、実際に使われているのか分からない

「座りすぎは良くない」の根拠の強さ

座位行動(sedentary behaviour:座ったり寝そべったりして、エネルギー消費が少ない状態)と健康の関係は、多くの研究で調べられています。成人を対象とした18件の系統的レビューをまとめた2020年の「レビューのレビュー」では、座位行動の多さは、認知機能、抑うつ、身体機能と障害、身体活動量、身体的な健康関連の生活の質と、望ましくない形で関連していました[1]。また、座位行動を減らす、あるいは座りっぱなしを途中で中断することは、体組成や心代謝リスクの指標に良い影響を与える可能性があるとされています[1]。

ただし、ここには大事な但し書きがあります。個々のレビューの証拠の質は低いものから高いものまでばらつきがあり、**全体としての証拠の確実性は「低い」から「非常に低い」**と評価されています[1]。「座りすぎが悪い」と言い切れるほど確かではなく、「避けたほうがよいと考えられる」という段階です。

座る、立つ、歩く、短く休む。一日の中で姿勢が切り替わる様子を描いた図
図1 一日の中で姿勢を切り替えるイメージ

世界保健機関(WHO)の2020年のガイドラインも同じ姿勢です。成人は、中強度の身体活動を週に150〜300分(または強度の高い活動を75〜150分、またはその組み合わせ)行うことを勧めています。座位行動の削減もすべての年齢層で推奨していますが、座位行動の基準値を量として示すには証拠が不十分としています[2]。「1日◯時間まで」という線引きは、現時点の科学では引けないということです。

「座る時間を減らす」介入は、どこまで効くのか

この節では、座る時間を減らす介入がどの程度効果を持つのかを、メタ分析から見ます。

介入の「焦点」で効果が変わる

成人の座位時間を減らす介入を比べた2014年のメタ分析(対照群のある研究が65件、うちメタ分析に33件を使用)によると、身体活動を増やすことに焦点を当てた介入や、身体活動と座位削減を組み合わせた介入は、結果が一貫せず、座位時間の減少は小さいものにとどまりました(身体活動の介入で標準化平均差 -0.22、組み合わせで -0.37)[3]。一方、座位そのものを減らすことに焦点を当てた介入では、大きな減少が見込めるという一貫した証拠が、中程度の質の根拠として示されています(標準化平均差 -1.28)[3]。

介入の焦点座位時間への効果(標準化平均差)研究間の一貫性
身体活動の増加-0.22一貫しない
身体活動+座位削減-0.37一貫しない
座位削減そのもの-1.28一貫している

標準化平均差は、研究ごとに測り方が違う指標を同じ尺度に直した効果の大きさです。数値の絶対値が大きいほど、座位時間の減少が大きいことを示します。この表は2014年のメタ分析に含まれた多様な介入全体の結果であり、昇降デスクだけを調べたものではありません。

つまり、運動を促すだけでは座位は減りにくく、「座る時間を減らす」ことを狙って設計した介入のほうが効きやすいと読めます。ここまでが、複数の研究を束ねた定番の知見です。では、昇降デスクを使った2024年の試験は、これと同じ結果だったのでしょうか。

2024年の新しい研究が示したこと

この節では、デスクワーカーを対象にした2024年の無作為化試験を2つ取り上げます。いずれも発表から日が浅く、追試による確認は、これから積み重なっていく段階です。

RESET-BP:座位は減ったが、血圧は

2024年に発表された新しい研究(RESET-BP試験)は、デスクワーカーを対象にした3か月間の無作為化臨床試験です[4]。対象は18〜65歳で、血圧がやや高め(収縮期120〜159、または拡張期80〜99 mmHg)、降圧薬を使っておらず、中〜強度の身体活動が週150分未満の人でした。参加者は、座位を減らす介入群と、連絡を取らない対照群に分けられました。介入では、1日あたり2〜4時間の座位を立位や歩行に置き換えることを目標に、コーチング、手首に着ける活動促進デバイス、昇降デスクを組み合わせました[4]。

研究の設計(Barone Gibbs ほか 2024)yaml
design: 無作為化臨床試験(並行群、3か月)
participants: デスクワーカー271人(平均45歳)
intervention: コーチング + 活動促進デバイス + 昇降デスク
control: 連絡なしの対照群
measure: 大腿に着けた加速度計(座位・立位・歩行)
primary_outcome: 診察室での安静時収縮期血圧

結果として、介入群は対照群に比べて座位が1日あたり1.15時間減り、立位が0.94時間、歩行が5.4分増えました[4]。座位や活動の変化は主に勤務時間中に起き、目標には届いていませんでした[4]。そして、要旨には「介入は血圧を下げなかった」という趣旨の記載があります[4]。座位を約1時間減らしても、少なくとも3か月・この条件では、血圧の低下という形では現れなかったことになります。

SUFHA:6か月の昇降デスク導入

同じく2024年に発表された新しい研究(SUFHA試験)は、ポルトガルのオフィスワーカー39人を、昇降デスクを導入する群と対照群に無作為に分けた6か月間のクラスター無作為化試験です。座位時間は ActivPAL(大腿に着ける装置)で測られました[5]。

結果は慎重に読む必要があります。主要評価項目・副次評価項目とも、群と時間の交互作用に有意差はありませんでした(ウエスト周囲径が対照群で小さかった点を除く)[5]。一方、介入群の内部では、3か月時点の一部の参加者(11人)で座位が1日あたり44.0分、30分を超える連続座位が45.3分減り、立位が51.7分増えました。介入群全体でも、30分を超える連続座位は1日あたり26分減っています[5]。ただし、これは対照群との比較ではなく、介入群の中での変化です。

2つの試験とも、発表は2024年で、被引用数もまだ多くありません。RESET-BPは271人と比較的大きな試験ですが、SUFHAは39人と小規模で、一部の結果は11人の部分集団に基づきます。対象も特定の国・集団であり、日本の職場にそのまま当てはまるとは限りません。また、昇降デスク単体の効果ではなく、コーチングなどとの組み合わせの効果を見た試験もあります。結論は今後の研究で更新される可能性があります。

環境の設計として考える

ここまでの研究を踏まえて、現場で何を設計できるかを考えます。

2014年のメタ分析が示すように、座位削減を明確な目的にした介入のほうが効きやすい[3]。ところが2024年のRESET-BPが示すように、その介入でも、座位の減少は目標に届かなかった[4]。机を入れ替えるだけでは足りず、「座る時間を減らす」ための使い方の設計が要る、というのが、現時点で最も素直な読み方です。

私たちは、環境は物理環境(音・光・温度・空間)と組織環境の両面から設計するものだと考えています。昇降デスクのような物理環境の整備は出発点にすぎず、立って働くことが許容される雰囲気や、会議の進め方といった組織環境と合わせて考える必要があります。関連して、オフィス全体のレイアウトについてはオープンプランオフィスは集中と交流のどちらを取る問題かでも整理しています。

導入前後で確かめたいこと

  1. 01座位時間を、自己申告ではなく装置などで測る
  2. 02導入の目的を「座位を減らす」ことに絞って伝える
  3. 03一部の人だけが使っていないか、使用状況を見る
  4. 04一定期間後に、座位時間と、疲労や不快感などの主観的な指標を比較する

「座る時間は減ったか」と「健康指標は変わったか」は別の問いです。RESET-BPでは前者は変化し、後者の血圧は、要旨で確認できた範囲では下がっていませんでした[4]。何を成果と呼ぶのかを、導入前に決めておくことが大切です。

まとめ:デスクより先に、目的を決める

座りすぎが健康に望ましくないという見方は、複数の総説で示されていますが、証拠の確実性は低いと評価されています[1]。座位削減を狙った介入は、座位時間を減らしうるというメタ分析の結果がある一方で[3]、2024年の新しい試験では、昇降デスクを含む介入でも、座位の減少は限定的でした[4][5]。昇降デスクは、それだけで座位を変える魔法の道具ではありません。

明日からできる一歩は、「何のために座る時間を減らすのか」を決め、現状の座位時間を測ってみることです。そのうえで、昇降デスクや運用ルールを設計し、変化を検証していく。測る → 理解する → 設計する → 検証する、という循環は、座る時間の設計にも当てはまります。

注

  1. Saunders, T. J. ほか(2020)「Sedentary behaviour and health in adults: an overview of systematic reviews」『Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism』 https://doi.org/10.1139/apnm-2020-0272
  2. Bull, F. C. ほか(2020)「World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour」『British Journal of Sports Medicine』 https://doi.org/10.1136/bjsports-2020-102955
  3. Prince, S. A. ほか(2014)「A comparison of the effectiveness of physical activity and sedentary behaviour interventions in reducing sedentary time in adults: a systematic review and meta-analysis of controlled trials」『Obesity Reviews』 https://doi.org/10.1111/obr.12215
  4. Barone Gibbs, B. ほか(2024)「Effects of Sedentary Behavior Reduction on Blood Pressure in Desk Workers: Results From the RESET-BP Randomized Clinical Trial」『Circulation』 https://doi.org/10.1161/circulationaha.123.068564(新しい研究)
  5. Júdice, P. B. ほか(2024)「The effectiveness of a 6-month intervention with sit-stand workstation in office workers: Results from the SUFHA cluster randomized controlled trial」『Work』 https://doi.org/10.3233/wor-230624(新しい研究)
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この記事を書いた人

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