睡眠の質を測ることは、仕事のパフォーマンスの何を教えてくれるか
夜勤明けの集中力低下や、裁量労働でのミスの増加を、「気合が足りない」で片づけていないでしょうか。活動量計(アクチグラフィ)で睡眠を測ることが、仕事のパフォーマンスの何を教え、何を教えてくれないのかを、研究知見から整理します。
Stella Nest 編集部

夜勤明けの現場で「もう一本、集中力が続かない」と感じても、それを「経験不足」や「気合」の問題として片づけていないでしょうか。あるいはR&D部門で裁量労働が認められている研究者が、「よく眠れている」と答えながら、実験のミスや判断の遅れを繰り返しているケースもあります。睡眠の状態は、本人の申告だけでは正しくつかめないことがあります。私たちはこの問いに、活動量計(アクチグラフィ)で睡眠を客観的に測ることの意義と限界という切り口から向き合っています。
なぜ交代勤務・裁量労働で睡眠が問題になるのか
建設・不動産業の交代勤務や、R&D部門の裁量労働は、睡眠のリズムが崩れやすい働き方です。しかし、その乱れは表面化しにくく、現場では次のような状態が放置されがちです。
- 夜勤明けの集中力低下を、本人の「経験」や「体力」の問題として扱ってしまう
- 裁量労働のため労働時間も睡眠時間も自己管理に委ねられ、外から確認する手段がない
- ヒヤリハットやミスが増えても、睡眠不足が原因だと結びつけて考えられない
気合や経験ではなく、睡眠不足の蓄積という生理的な問題かもしれない
被引用3,000回を超える古典的な研究は、この「気づかれにくさ」の理由を示しています。48人の健康な成人を対象に、就床時間を8時間・6時間・4時間の3群に分け、14日間続けた実験です[1]。6時間・4時間睡眠を14日間続けた群では、認知課題の成績が日を追うごとに累積的に悪化しました[1]。一方で、本人が感じる眠気の自己評価は、最初の数日で頭打ちになり、6時間群と4時間群の違いをほとんど区別できませんでした[1]。つまり、本人の自覚と、実際のパフォーマンス低下はずれていくということです。

自己申告ではなく、記録から睡眠を見るという発想
従来、睡眠不足への対策は、本人の自己申告や疲労感のアンケートを起点に行われてきました。しかし先の研究が示すように、自己申告の眠気は、蓄積した睡眠不足の深刻さを正しく反映しません。私たちは、脳波・心拍に加えて、モーションセンサーによる行動データを組み合わせて状態を読み取るアプローチを取っています。考え方はスマホ・ウェアラブルの「パッシブセンシング」で状態は読み取れるかで紹介した、行動データから状態を推定する発想と重なります。
Subjective sleepiness ratings showed an acute response to sleep restriction but only small further increases on subsequent days, and did not significantly differentiate the 6 h and 4 h conditions.
睡眠制限実験の設計
- 0148人の健常な成人(21〜38歳)を、ベースライン期間を経たのち3群に無作為割り付け
- 02就床時間を8時間・6時間・4時間のいずれかに14日間固定(比較対象として、3日間の完全な断眠群も設定)
- 03期間中、毎日の認知課題の成績と、終夜睡眠ポリグラフ(脳波などによる睡眠の直接測定)を並行して記録
participants: 48
age_range: 21-38
duration: 14 days
conditions: [8h, 6h, 4h, total_sleep_deprivation_3days]
measures: [cognitive_tasks_daily, polysomnography, subjective_sleepiness]計測で見えてきたこと
活動量計そのものを直接検証した研究ではありませんが、関連する研究群から、「測ることで分かること」と「測るだけでは分からないこと」の両方が見えてきます。
まず、睡眠は介入によって変えられる対象です。34件の運動介入研究をまとめた系統的レビューでは、29件で運動が睡眠の質や睡眠時間を改善したと報告されていますが、4件は差がなく、1件はむしろ悪化したと報告されています[2]。結果が分かれた理由として、対象者の年齢・健康状態・運動の種類や強度の違いが挙げられています[2]。同様に、不眠症に対するインターネット配信の認知行動療法(CBT-I)のメタ分析では、睡眠効率がベースラインの72%から7.2ポイント改善したと報告されています[3]。いずれも、睡眠は測って終わりの指標ではなく、介入によって変わりうる指標であることを示しています。
| 研究 | 対象・方法 | 主な結果 |
|---|---|---|
| Van Dongen ほか(2003) | 健常成人48人・実験室での睡眠制限 | 6・4時間睡眠を14日継続で認知成績が累積的に悪化 |
| Dolezal ほか(2017) | 34件の運動介入研究の系統的レビュー | 29件で睡眠の質・時間が改善、結果は年齢等で分かれる |
| Seyffert ほか(2016) | 不眠症15試験のメタ分析 | インターネットCBT-Iで睡眠効率が+7.2ポイント |
2025年に発表された新しい研究では、睡眠は年齢や個人によって軌跡が大きく異なり、体内時計のずれ(クロノタイプの不一致)が睡眠不足や「社会的時差ぼけ」の主要な要因の一つになると整理されています[4]。また、成人の睡眠の質や構造には個人差が大きく、居住環境や社会経済的な要因も睡眠の健康に影響すると指摘しています[4]。この研究はこれまでの知見を整理した総説であり、個々の関係の因果関係については、まだ確かめている途中の段階です。
Van Dongen ほか(2003)は実験室での厳密な統制下の研究で、対象も21〜38歳の健常な48人に限られます。交代勤務やR&D部門の実際の職場は、年齢層も生活条件もさまざまで、そのまま当てはまるとは限りません。また、活動量計(アクチグラフィ)は手首の動きから睡眠・覚醒を推定する方法であり、脳波を直接測る終夜睡眠ポリグラフとは測定の原理が異なります。個人差が大きいという新しい知見を踏まえると、「基準値」に当てはめるより、一人ひとりの記録の変化を見ることが大切です。
まとめ:睡眠は、感覚ではなく記録で扱う
交代勤務や裁量労働のもとでは、本人の「よく眠れている」という感覚と、実際のパフォーマンスがずれていくことがあります。活動量計による客観的な記録は、その両者の間の距離に気づくきっかけになります。一方で、それは脳波の直接測定ではなく、個人差も大きいため、単独の数値で断定できるものでもありません。測ることを、対策の入り口として使うのが、現実的な向き合い方だと私たちは考えています。
注
- Van Dongen, H. P. A. ほか(2003)「The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation」『SLEEP』 https://doi.org/10.1093/sleep/26.2.117
- Dolezal, B. A. ほか(2017)「Interrelationship between Sleep and Exercise: A Systematic Review」『Advances in Preventive Medicine』 https://doi.org/10.1155/2017/1364387
- Seyffert, M. ほか(2016)「Internet-Delivered Cognitive Behavioral Therapy to Treat Insomnia: A Systematic Review and Meta-Analysis」『PLoS ONE』 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0149139
- Simon, K. C. N. S. ほか(2025)「Sleep Across the Lifespan: A Neurobehavioral Perspective」『Current Sleep Medicine Reports』(新しい研究) https://doi.org/10.1007/s40675-025-00322-2
